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当院の漢方診療:六病位(前編)

当院では、漢方医学を取り入れた診療を行い、患者様一人ひとりに合わせた個別的な治療を提供しています。今回は、漢方診療の中でも重要な概念である「六病位」についてお話しします。六病位とは、病気の進行段階を表すもので、『傷寒論』1)において病の経過を六つの段階に分類しています。今回はその中から、三つの陽病、すなわち「太陽病」「小陽病」「陽明病」について解説します。

 

[注]

1)『傷寒論(しょうかんろん)』は、『金匱要略(きんきようりゃく)』と共に『傷寒雑病論』と総称されます。3世紀初めに張仲景が著したとされる。この2書は、漢方の湯液(とうえき)療法(生薬処方)における古典として今日まで最高の評価を得ています。『傷寒論』は腸チフス様の「傷寒」という急性熱性病の病態と治療を論じた書である。傷寒の病態を太陽病・小陽病・陽明病・太陰病・少陰病・厥陰病という六つのstageいわゆる病期の病態と適応処方を説き記している。

 

1.六病位の概念

病は時間の経過とともに、また身体の状態によって変化します。『傷寒論』ではこの進行を六つの病期に分類しており、これを「六病位」と呼びます。具体的には、「太陽病」「小陽病」「陽明病」「太陰病」「少陰病」「厥陰病」の六つです。これらは陽の病態(太陽病・小陽病・陽明病)と陰の病態(太陰病・少陰病・厥陰病)に分かれています。

● 陽病は、闘病反応が熱性で積極的なものです。

● 陰病は、闘病反応が寒性で消極的なものです。

 

また、各病期では闘病反応が起こっている主な場所が決まっており、陽病では、太陽病は表の位置に、小陽病は表裏の間に、陽明病は裏に位置しています。陰病は主として裏に位置しています。陽病では病の位置が明確に分かれており、症状がはっきりと現れるため、診断が比較的容易です。一方、陰病ではすべて病が裏にあるため、症候が分かれにくいですが、病の緩急を表すといわれています。

 

2.六病期の特徴

それでは、各病期の特徴について詳しく見ていきましょう。

(1) 太陽病

太陽病は、病が表の位置にあり、最も浅く軽い段階です。その主な症状は、悪寒・発熱・頭痛・項強・脈浮などです。これを「表証」と呼びます。関節痛や筋肉痛、神経痛が伴うこともあります。

● 中風と傷寒: 太陽病は「中風」と「傷寒」の二種類に分けられます。中風は良性の邪気で、特徴的な症状としては自汗や脈緩です。傷寒は悪性の邪気で、強い悪寒や筋肉・関節痛、嘔気、脈緊が特徴です。感冒は中風、インフルエンザは傷寒と考えると分かりやすいです。

● 熱多く寒少なし: 太陽病における熱型では、悪寒と同時に熱感が現れるのが基本ですが、時には熱のみを感じ、悪寒が少ない場合もあります。このような病態を「熱多く寒少なし」と呼びます。顔面の紅潮が見られることが多く、桂枝二麻黄一湯(けいしにまおういっとう)、桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)や桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)などが処方されることがあります。

 

(2) 小陽病

小陽病は、病が表裏の間に位置しており、「表裏間の候(半表半裏の症)」とも呼ばれます。主な症状には、胸脇苦満・往来寒熱・口の苦み・嘔気などがあります。食欲不振、渇、心煩、咽乾、耳聾、目眩、舌の白苔などの症候を伴うこともあります。

 

(3) 陽明病

陽明病は、病が裏の位置にあり、太陽病よりも深くかつ重い状態です。その主徴は、悪寒せず、悪熱し、腹部膨満、大便せず、あるいは譫語(せんご)し、あるいは腹満によって喘するなどである。これを「裏熱の候」と言います。

 

今回は「六病位」のうちの三陽(太陽病・小陽病・陽明病)についてご紹介しました。次回は、陰の病態である「太陰病」「少陰病」「厥陰病」についてお話しさせていただきます。

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