当院の膵疾患診療:IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)について
膵臓には液体のたまった袋状の腫瘍(のう胞)がいくつか存在します。これらは総称して「膵のう胞性腫瘍」と呼ばれます。本日はその中でも最も発生頻度が高く、代表的な膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下IPMN)についてご紹介いたします。
①分類
IPMNは、まず画像診断によって分類されます。さらに、切除後の症例では病理学的分類も採用されます。
1. 分枝型IPMN(BD-IPMN)
主膵管と交通する5mmを超えるのう胞です。急性膵炎や膵外傷の病歴がある場合は、仮性のう胞を除外する必要があります。5mm以下で無症状の症例についてのマネージメントには議論がありますが、当面は経過観察が推奨されます。
2. 主膵管型IPMN(MD-IPMN)
他に原因がない場合に5mmを超える主膵管の部分的またはびまん性の拡張を認めます。
3. 混合型IPMN
BD-IPMNとMD-IPMNの両方の基準を満たすIPMNです。
②諸検査
IPMNが疑われる患者には、理学的検査、血液検査、画像診断、必要に応じて細胞診を伴う内視鏡検査が行われます。小さいBD-IPMNは無症状であることが多いですが、腹部膨満感、腹痛、膵炎に起因する背部痛や黄疸などの症状が現れることもあります。血液検査では血算、肝機能、膵酵素を調べ、腫瘍マーカーの上昇や糖尿病の新規発症、または既存の糖尿病の増悪が確認された場合、浸潤癌の可能性が示唆されます。
画像診断には、MRIによる胆管膵管撮影(MRI/MRCP)や造影CT(MDCT)、さらにEUS(超音波内視鏡検査)が有効です。EUSで造影法を併用すると診断能力が向上します。IPMNにおけるHGD(高度異形成)や浸潤癌の診断精度は、MDCT、MRI、EUSで同等と報告されています。しかし、画像診断の進歩にもかかわらず、IPMNなどの嚢胞性膵疾患の正診率は47-78%、HGD/浸潤癌の正診率は73-97%です。MRIとEUSは放射線被ばくを避けるためには望ましいですが、MRIは国・地域によっては費用面で頻繁に施行できないこともあり、EUSの診断能は施行者の技術に依存する点もあります。
③がんのリスクが高いIPMNは?
IPMNのHGDや浸潤癌を予測する因子について、国際診療ガイドラインでは2012年版以降、「HRS(High-Risk Stigma:がんの可能性が高いIPMN)」および「WF(Worrisome features:がんの疑いがあるIPMN)」という分類がされています。HRSはHGDや浸潤癌の強い予測因子ですが、特異度は完璧ではありません。したがって、手術適応を決定する際にはHGD/浸潤癌のリスクだけでなく、患者の全身状態、併存疾患、余命、治療への意欲なども総合的に考慮する必要があります。このため、2024年版ガイドラインでは、手術の「絶対適応」「相対適応」という用語ではなく、「HRS」と「WF」という用語を使用しています。
HRSに該当する要因:
● 膵頭部のIPMNに伴う閉塞性黄疸
● 造影剤で増強される5mm以上の壁在結節または充実性成分
● 主膵管の10mm以上の拡張
● 細胞診で陽性または疑診
WFに該当する要因:
● 急性膵炎
● 血清CA19-9の上昇
● 新規発症の糖尿病や既存糖尿病の急性増悪
● 嚢胞のサイズが30mm以上
● 造影される壁在結節5mm未満
● 主膵管径5mm以上10mm未満
● 尾側膵萎縮を伴う主膵管の急な狭窄
● リンパ節腫大
● 嚢胞の急速な増大(2.5mm以上/年)
WFの数が増えるほど、HGDや浸潤癌のリスクは高まります。
④非切除IPMNの経過観察
BD-IPMNのHGDや浸潤癌への進展率は年齢とともに上昇します。初回診断時の嚢胞サイズや主膵管径が大きいほど、HGDや浸潤癌への進展率が高くなります。ガイドラインでは、BD-IPMNに対して、嚢胞のサイズに応じた経過観察を推奨しています。
● 20mm未満:初回診断後6ヶ月後、その後安定していれば18ヶ月ごと
● 20mm以上30mm未満:6ヶ月ごとに2回、その後安定していれば12ヶ月ごと
● 30mm以上:6ヶ月ごと
⑤当院での膵のう胞性疾患の対応
当院では、消化器病学会認定の消化器病専門医が膵のう胞性疾患の検査や定期的なフォローを行っております。膵のう胞やIPMNが疑われる方、または現在基幹病院や大学病院に通院中でも通院が困難な方は、ぜひ当院でのご相談をお勧めします。専門的な診断と治療、フォローアップを提供いたします。
膵のう胞性腫瘍は定期フォローアップが非常に重要です。私たちがしっかりとサポートいたします。
くまのまえブログ「当院の膵疾患治療:膵のう胞について」はこちらを参照してください。
参考文献
国際膵臓学会ワーキンググループ. エビデンスに基づくIPMN国際診療ガイドライン(日本語版)2024年版. 国際膵臓学会; 2024.