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当院の糖尿病診療:緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)について

1型糖尿病は、膵β細胞の破壊を伴い、劇症1型糖尿病、急性発症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病という3つの亜型に分類されます。本日は、特に「緩徐進行1型糖尿病(Slowly Progressive Insulin-Dependent Diabetes Mellitus:SPIDDM)」について詳しくご紹介いたします。

 

① 緩徐進行1型糖尿病とは?

緩徐進行1型糖尿病は、膵島関連自己抗体が陽性であり、糖尿病診断時にはケトシースやケトアシドーシスに至らず、即座にインスリン療法を必要としないことが特徴です。しかし、時間の経過とともに膵β細胞のインスリン分泌能が緩やかに低下し、最終的にはインスリン治療が必要になります。

 

② 疫学

緩徐進行1型糖尿病において、男女差や地域差はなく、特に成人に多いことが臨床的に経験されています。原因については未解明な部分もありますが、自己免疫学的な機序が関与していると考えられています。

 

③ 診断基準(2023)

必須項目

1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性である。a)

2. 原則として、糖尿病の診断時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちには高血糖是正のためのインスリン療法が必要とならない。

3. 経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の診断後3ヵ月b)を過ぎてからインスリン療法が必要になり、最終観察時点で内因性インスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド<0.6ng/ml)である。

 

判定
上記1、2、3を満たす場合、「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断します。
上記1、2を満たす場合は、インスリン非依存状態の糖尿病であり、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」とします。

 

a) 膵島関連自己抗体とは、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体、亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、インスリン自己抗体(IAA)を指します。ただし、IAAはインスリン治療開始前に測定した場合に限ります。
b) 典型例は6ヵ月以上である。

 

④ 治療

緩徐進行1型糖尿病の治療は基本的にインスリン療法が中心となりますが、「緩徐進行1型糖尿病(probable)」の段階では、インスリン非依存状態であるため、経口糖尿病薬(例えば、DPP-4阻害薬など)を用いる治療も選択肢として考えられます。なお、スルホニルウレア(SU)薬はインスリン分泌を過度に促進する可能性があり、その結果、病態の進行を加速させる恐れがあるため、使用は避けるべきです。また、ケトーシスの症状が現れた際には、SGLT2阻害薬の使用も控えるべきです。

 

⑤ 当院における糖尿病診療について

当院では、日本糖尿病協会の糖尿病認定医が、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な治療をご提案しています。最新の薬物治療を取り入れ、個々の患者様に最も適した治療プランを立てており、きめ細やかな対応を心がけています。

糖尿病に関するお悩みや治療方法について相談をご希望の方は、ぜひお気軽にご来院ください。スタッフ一同、心よりお待ち申し上げております。

 

参考文献

島田 朗, 川﨑 英二, 阿比留 教生 ほか: 緩徐進行1型糖尿病の診断基準(2023) – 1型糖尿病における新病態の探索的検討委員会報告. 糖尿病 66: 587-591, 2023.

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