くまのまえブログ

当院の漢方診療:証と漢方方剤について

今回は、漢方医学の診断や治療において重要な「証」という概念と、治療薬である「漢方方剤」についてお話しします。

 

① 漢方方剤の性格

漢方方剤は、複数の生薬を特定の分量比で組み合わせて使用されるものです。それぞれの方剤は、特定の病態に対して効果を発揮し、この特性を「方剤の性格(方格)」と呼びます。たとえば、葛根湯は麻黄、桂枝、葛根、芍薬、大棗、生姜、甘草などの生薬を組み合わせており、それぞれが特有の働きを持っています。

● 麻黄・桂枝:温熱を生じ、体表部の気血の巡りを強化します。

● 葛根・芍薬・甘草:項背部の筋肉の緊張を緩めます。

● 大棗・生姜・甘草:消化管を保護し、麻黄・桂枝の胃粘膜への刺激を和らげます。

このように、葛根湯は感染症の初期で、体が陽性反応を示し、実証の状態である項背部のこわばりや頭痛、悪寒を伴う症状に適応します。ただし、陰証や虚証の患者には使用できません。このように、各方剤は特定の「スペクトル」を持っており、それぞれの病態に最適なものを選ぶことが重要です。

 

② 証とは

「証」とは、「患者が現時点で現している症状を基に、気血水、陰陽、虚実、寒熱、表裏、五臓、六病位などの基本概念を通して認識し、さらに病態の特異性を示す症候ををとらえた結果を想像して得られる診断であり、治療の指示である」。

病態は刻々と変化する(病態の流動性)ため、「証」もそれに応じて変化します。このため、「現時点で」という限定がつきます。

まず、気血水論、陰陽論などの物差しによって、患者が位置するカテゴリーを決めます。その過程で、患者の体調や感覚を基に、寒がりや暑がり、身体のだるさなど、一般的には非特異的と思われる自覚症状が非常に重要になります。

このような症状も漢方医学では大切な情報となり、心身一如の医療体系として、患者一人一人の状態に合わせた診断が行われます。

「病態の特異性を示す症候」とは、陰陽や虚実などの理論に基づいて絞り込まれたカテゴリーの中で、最も適切な漢方方剤を選ぶために重要な症状を指します。

 

③ 方証相対(ほうしょうそうたい)

「証」についての説明より、まず第一に、患者の病態を正確に分類し診断するための知識と技能を身につけることです。第二に、各種の漢方方剤について、その方剤がどのカテゴリーに属するのか、そして他の方剤との鑑別においてどの症状が重要であるかをあらかじめ把握することが求められます。

漢方医学の診断は、病態の把握と治療薬としての漢方方剤が密接に連携していることに特徴があります。この関係は鍵(キー)と錠前(ロック)のように結びついており、方剤と証は密接に対応しています。このような関係を「方証相対」と呼び、古来より重要な概念とされています。

 

④ 当院での漢方診療

当院では、西洋医学の治療に加えて、漢方医学も取り入れた治療を行っています。日本東洋医学会に所属する内科学会専門医が、患者様一人一人の症状や体調に合わせた漢方治療を提供します。

西洋医学と漢方医学を組み合わせることで、より包括的なアプローチを実現し、患者様の健康の回復と維持をサポートします。漢方診療に興味のある方は、ぜひ当院にご相談ください。患者様の健康を全体的に支える最適な治療を提供いたします。

 

漢方医学の基本構造(気の思想・気血水論・心身一如・陰陽論・病態の流動性)などは、くまのまえブログ「当院の漢方診療:漢方医学の基本構造について」を参照してください。

 

参考文献:『学生のための漢方医学テキスト』日本東洋医学会学術教育員会、南江堂(2007)

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