当院の漢方診療:表裏について
今回は漢方診療における「表裏」についてお話します。漢方医学では、病気の進行や体調に合わせて、症状に応じた治療を行うための重要な概念として「表」と「裏」があります。この概念を理解することが、漢方治療の鍵となります。
①表裏の概念
漢方医学における「表」と「裏」は、身体の部位によって異なります。
● 表(ひょう):皮膚、筋肉、関節、神経など、身体の外側に近い部分
● 裏(り):身体の深部、内臓にあたる部分
● 半表半裏(はんぴょうはんり):表と裏の中間に位置する、肺や肝臓など、横隔膜周辺の臓器
また、病気の進行に応じて、それぞれの部位に適した方剤が使用されます。例えば、六病位分類では、以下のように対応します。
● 太陽病期:表に相当し、発熱や悪寒など、外的な症状が現れる時期
● 少陽病期:半表半裏に相当し、炎症が体内に広がる時期
● 陽明病期、太陰病期、少陰病期、厥陰病期:裏に相当し、病邪が体内に深く入った状態
②表裏の診断と治療
感染直後の太陽病期では、悪寒や発熱、筋肉痛、関節痛など、身体の外側に現れる表証の症状が見られます。つまり太陽病期と表証同義であり、太陽病とは病気の性状や状態を、表とは病気の部位を表す漢方用語となります。この時期は、病邪が「表」に存在していると考えられ、発汗法(発汗剤)で病邪を外に追い出す治療が行われます。
表証が過ぎると、悪寒が収まり、気管支症状や消化器症状(胸協苦満や口の苦み、嘔気など)が現れます。これが半表半裏証、または少陽病期にあたります。この段階では、抗炎症作用や免疫調整作用を持つ小柴胡湯などが使用され、病状を軽減します。
ちなみに古人はどの時点で発汗剤(表証の方剤)から清熱・和解剤(半表半裏の方剤)に変更するか判断したのでしょうか。
そこで編み出したのが、
(1)口が苦いや嘔気などの出現(自覚症状)
(2)浮脈から弦脈へ変化(脈診)
(3)苔が厚くなる(舌診)
(4) 心下痞硬、胸協苦満の出現(腹診) です
これらの徴候を認めたら、発汗剤から清熱・和解剤に変更しました。
さらに病気が進行すると、陽明病期、または裏証と呼ばれる状態に進み、40度近くの高熱が続くことがあります。この時期には、大黄や芒硝などを含む瀉下作用がある方剤で消化管から病邪を排出します。しかし、病気が長引くと、正気が疲弊し、虚の病態に陥ることがあるため、この場合は、闘病反応を高める方剤を使用してサポートします。
③表裏による方剤の使い分け
表裏に応じた適切な治療法を選ぶことが、漢方治療の重要なポイントです。たとえば、冷たいビールを飲むと下痢をする人がいますが、これは消化管(裏)が冷えたためです。こうした場合には、消化管を温める真武湯や人参湯が使われます。
また、寒さで体調が悪くなる場合、外的な寒さ(表)により体調が崩れると考えられ、身体の表面を温める当帰四逆湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯などが適用されます。感冒による悪寒でも、表の冷えには桂枝や麻黄、生姜、杏仁などを使って温め、裏の冷えには附子、乾姜、細辛を使います。
④当院での漢方診療
当院では、西洋医学と漢方医学を融合させた治療を行っており、患者様一人ひとりの体調や症状に合わせた個別的な治療を提供しています。漢方は、体質や生活習慣に合わせて、長期的な健康維持を目指すことができるため、特に慢性疲労や冷え性、消化不良などの症状で効果を実感していただいています。
漢方にご興味のある方や、ご自身に合った治療法をお探しの方は、ぜひ当院にご相談ください。患者様の健康を全体的にサポートし、最適な治療法をご提案させていただきます。
お問い合わせは、当院までお気軽にご連絡ください。
● 漢方についての、過去のくまのまえブログは下記を参照してください。
① 漢方医学の基本構造(気の思想・気血水論・心身一如・陰陽論・病態の流動性)は、「当院の漢方診療:漢方医学の基本構造について」。
② 証や漢方方剤は、「当院の漢方診療:証と漢方方剤について」。
③ 陰陽は、「当院の漢方診療:陰陽について」。
④ 虚実は、「当院の漢方診療:虚実について」。
参考文献:『学生のための漢方医学テキスト』日本東洋医学会学術教育員会、南江堂(2007)