当院における糖尿病診療:インスリンの働きについて
糖尿病の診療において、インスリンは非常に重要な役割を果たします。今回はインスリンとは何か、その働きや作用機序、本邦で使用される主なインスリン製剤についてご紹介します。また、インスリンに関する副作用やインスリン抵抗性、医師国家試験の過去問も取り上げますので、さらに理解を深めていただければと思います。
①インスリンとは
インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を調整する重要な役割を担っています。血糖値が高くなりすぎると、インスリンが分泌されて血糖値を下げる働きをします。糖尿病の患者さんでは、インスリンの分泌が不足したり、インスリンの働きが十分でないこと(インスリン抵抗性)が原因で血糖値のコントロールが難しくなります。
②インスリンの作用機序
インスリンは、体内の細胞に血糖を取り込ませることで血糖値を下げます。また、ブドウ糖が細胞内に取り込まれる過程において、血中のカリウムもチャネルを介して細胞内に取り込まれます(血中カリウム低下)。具体的には、インスリンは肝臓、筋肉(骨格筋)、脂肪細胞などに作用して、グルコースの取り込みを促進します。肝臓では、グルコースがグリコーゲンへと合成されます。また、インスリンは肝臓でのグルコース産生を抑制する(糖新生抑制)作用もあり、これにより血糖値が正常範囲に保たれます。
③本邦で使用可能なインスリン製剤
インスリン製剤は作用時間に基づいて、超速効型、速効型、中間型、持効型、溶解インスリン製剤などに分類されます。また、異なる2種類のインスリン製剤が混合された「混合型」や「配合溶解インスリン製剤」もあります。基礎インスリンの補充には、主として持効型溶解インスリン製剤が用いられ、追加インスリンには主に超速効型インスリン製剤が使用されます。さらに、2019年以降、持効型溶解インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合注射薬も使用可能となっています。
④インスリン製剤による副作用
インスリン治療は非常に効果的ですが、いくつかの副作用もあります。主な副作用は以下の通りです。
1.低血糖や体重増加
インスリンの過剰投与により、肝臓からの糖放出抑制や末梢組織における糖利用の促進が過度になり、低血糖を引き起こします。また、インスリンの同化作用により体重増加がみられることがあります。
2.網膜症の悪化
急速な血糖コントロールの改善が網膜症に悪影響を与えることがあるため、血糖値を急激に下げる際には注意が必要です。
3.インスリンアレルギー・アナフィラキシー
ヒトインスリン製剤やインスリンアナログ製剤の登場により、アレルギーの頻度は減少しましたが、まれに即時型アレルギー(アナフィラキシーショック)が発生することがあります。
4.インスリン抗体の産生
まれに高結合能・低親和性を示すインスリン自己免疫症候群様の抗体が出現し、血糖コントロールの不安定化を引き起こすことがあります。
5.皮下硬結(インスリンリポハイパートロフィー、インスリンボール)
インスリンを同じ部位に繰り返し注射することで、皮下注射部位やその周囲の皮下脂肪がスポンジ状に肥大し、リポハイパートロフィーやアミロイド沈着を生じることがあります。これによりインスリン吸収が不安定になり、血糖コントロールが乱れることがあります。
⑤インスリン抵抗性とは
インスリン抵抗性とは、インスリンが十分に分泌されていても、筋肉などの細胞がインスリンに反応しない状態を指します。これにより、細胞内に糖が取り込まれなくなります。主な原因として、過食や運動不足による脂肪の蓄積が挙げられ、結果としてインスリンの働きが悪くなります。
⑥インスリンについての医師国家試験過去問の紹介
インスリンの働きや治療方法は、医師国家試験でも頻出のテーマです。過去問を解くことで、インスリン治療の理解が深まり、患者さんに最適な治療法を提案するための知識を得ることができます。例えば、「インスリンの作用機序について正しいのはどれか?」という問題が出題されます。以下は、昨年の第118回医師国家試験(118F29)からの出題例です。
118F29: インスリンの作用で間違っているのはどれか。
a 肝臓での糖新生の抑制
b 肝臓でのグリコーゲン合成促進
c 脂肪細胞での中性脂肪分解促進
d 骨格筋でのアミノ酸取り込み促進
e 骨格筋でのグルコース取り込み促進
(解説)
● c インスリンは脂肪細胞での中性脂肪分解を抑制し、脂肪の蓄積を促進します。
● d インスリンは骨格筋でのアミノ酸取り込みを促進し、タンパク質合成を促進します。
● a, b, e は、上記②インスリンの作用機序を参照してください。
したがって、答えは c です。
⑦当院での治療について
当院では、日本糖尿病協会糖尿病認定医が患者様一人ひとりの状態に応じた最適な治療を行っています。インスリン治療だけでなく、SGLT2阻害薬をはじめとする薬物治療も取り入れ、患者様に最も適した治療プランを提案させていただいております。糖尿病についてお悩みの方や、治療についてご相談がある方は、どうぞお気軽にご来院ください。私たちスタッフ一同、皆様のお越しを心よりお待ちしております。




