便潜血検査について
大腸がんは、2023年のがん統計によると、日本でのがんによる死亡数の第2位となっています。このため、大腸がんの早期発見には定期的な検診が不可欠です。今回は、日本で行われている便潜血検査について詳しく解説いたします。
① 免疫便潜血検査(FIT:Fecal Immunochemical Test)
免疫便潜血検査(FIT)は、日本で開発された大腸がん検診の方法で、1992年にFIT2日法を用いた大腸がん検診が始まりました。対象年齢は40歳以上で、検診は1年に1回の頻度で行われます。この検査では、2日間にわたって便を採取し、そのうち1日でも便に潜血が確認されると「要精検」となり、全大腸内視鏡検査(大腸カメラ)が必要です。
FITは、ヒトヘモグロビンに特異的に反応するため、食事制限が不要となり、また胃液などによって変性したヘモグロビンには反応しないため、上部消化管(口腔、食道、胃、十二指腸)からの出血には影響を受けません。この特徴により、下部消化管における出血に特異的な検査方法となっています。
② 正しい便の採り方
過去には糞便を穿刺して採便する方法が用いられていましたが、近年では便の表面をまんべんなく擦る方法が推奨されています。今井先生らの研究によると、結腸がんと直腸がんでは、便の表面および割面からの潜血陽性度に違いがあることが示されています。そのため、現在では採便棒を使用して便の表面をしっかり擦り、棒の溝が埋まる程度に便を採取することが重要です。
③ 便潜血検査の流れ
便を採取したら、すぐに冷蔵庫に保存してください。便に含まれるヘモグロビンは高温で放置すると劣化してしまうため、保存方法が大切です。2日目の便を採取したら、速やかに提出してください。検査機関では、提出された検体をできるだけ早く回収し、基本的には即日で測定を行います。
地域保健・健康増進事業報告によると、便潜血検査を受けた人のうち、約5.4%が要精検となっています。
④ 便潜血が陽性の場合、必ず精密検査が必要
便潜血検査で陽性反応があった場合、必ず精密検査として大腸カメラを受ける必要があります。しかし、陽性反応が必ずしも大腸がんを意味するわけではありません。地域保健・健康増進事業報告によると、便潜血陽性となった場合の大腸がんの発見率は2.8%に過ぎませんが、腺腫(がんに発展する可能性がある腫瘍)の発見率は25.7%に達しています。便潜血検査の陽性反応が示す大腸がんの可能性は低いものの、腺腫などの前がん状態が発見されることも多いため、必ず精密検査を受けましょう。
⑤ 当院での検査について
「検査が怖い」「以前の検査で痛みを感じた」といった理由で検査に踏み切れない方も多いかもしれません。当院では、日本消化器内視鏡専門医による大腸カメラを実施しています。また、鎮静下での検査も可能で、眠った状態で検査を受けることができますので、痛みや不安を感じることなく、快適に検査を受けることができます。
大腸がん検診は早期発見に繋がる重要な手段です。少しでも不安があれば、ぜひご相談ください。
● 大腸カメラについての、過去のくまのまえブログは下記を参照してください。
① 「当院における大腸カメラについて」 2018年9月11日
② 「大腸ポリープについて」2019年1月11日
② 「当院における大腸カメラ:なぜ痛みが少なくできるのか?」2021年5月10日
③ 「当院で大腸内視鏡検査を選択する人が多い理由」2025年1月24日
参考文献
● がん情報サービス がん統計 https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html
● 今井信介、他:大腸癌患者糞便の潜血陽性部位の分布からみた効果的な採便方法.消集検1992; 95:130-137
● 間部 克裕、松田 一夫、松田尚久:大腸がん検診と大腸内視鏡スクリーニング 確実な大腸がん死亡率減少をめざして;2024 文光堂