アレルギー性鼻炎:疫学(Epidemiology)
前回はアレルギー性鼻炎の「定義」と「分類」について解説しましたが、今回は「疫学」について深掘りしてお話ししたいと思います。お付き合いよろしくお願いします。
概要
本邦では1960年代後半からアレルギー性鼻炎が増加しました。当初はダニによる通年性アレルギー性鼻炎が主な原因でしたが、都市部では花粉症の増加が著しく、特にスギ花粉症の有病率の高さは、しばしば社会問題として取り上げられるようになりました。アレルギー性鼻炎の増加の原因は不明ですが、主に抗原量の増加が第一に考えられています。
① ダニアレルギー
塵ダニの関与については1964年に初めて報告され、それ以来、医学や公衆衛生学の分野で住居内のダニ類が注目されてきました。1964年、大島らによって日本で初めて室内塵中ダニ類の調査が行われましたが、その後のダニの増加には日本の住居環境の変化が関与しているとされています。1960年代から気密性の高い西洋式建築様式が採用され、新建材、西洋式家具、暖房などが保温・保湿条件を高め、ダニの繁殖に好適な環境を作りました。また、大掃除、畳干し、虫干しといった優れた住居管理の習慣が衰退し、共働きや核家族、単身世帯の増加、室内で過ごす時間の長さなど、生活様式の変化も密接に関係しています。
アレルギー疾患を持つ人のうち、ダニに感作している人の割合は日本では約30%ですが、シンガポールでは70〜90%、台湾では85〜90%に上ると報告されています。一方、ヨーロッパ各国の平均は約22%となっており、ダニによるアレルギー疾患の増加の原因の一つには、地球温暖化が挙げられています。温帯地域では気温と湿度の上昇がダニの増殖、生存延長、抗原産生増加につながります。また、高温のため空調を使用し、長時間室内で過ごすことが、さらにダニ暴露を増加させる原因となります。
② スギアレルギー
スギ花粉症の増加は、スギ花粉飛散量の増加に大きく影響されています。日本固有の植物であるスギ花粉症の最初の報告は、斎藤らによって1964年に栃木県日光地方で行われた21症例に関するものでした。戦後、全国の山林で広くスギが植林され、その後1960年代から手入れが疎かになり、多くのスギが花粉産生能力の高い30年以上の樹齢となりました。そのため、花粉飛散量は毎年増減がありますが、1995年以前と以降で花粉飛散量は有意に増加しています。
東京都の10年ごとの有病率調査によると、1986年(10.0%)、1996年(19.4%)、2006年(28.2%)、2016年(45.6%)と、スギ花粉症の有病率は著しく増加しています。また、Urashimaらの最近の疫学調査では、1973年以降に生まれた集団は、それ以前の集団と比べてスギ花粉症を発症するリスクが高いことが分かりました。これは、植林が終了してから生まれた集団が生後間もなく多くの花粉暴露を受けているためだと報告されています。
秋田県での小学生を対象とした疫学調査においても、スギ花粉飛散量(スギ花粉暴露)が多い地域では、スギ特異的IgE陽性率とスギ花粉症発症率が有意に高いことが証明されています。
次回はアレルギー性鼻炎の「発症」について詳しくお話ししたいと思います。お楽しみに!
● アレルギー鼻炎についての過去のブログは下記を参照してください。
①「アレルギー性鼻炎:定義と分類」。
参考文献
● 鼻アレルギー診療ガイドライン – 通年性鼻炎と花粉症 – 2024年版 改訂第10版:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会、鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編