アレルギー性鼻炎:発症のメカニズム
前回に引き続き、アレルギー性鼻炎について詳しく解説します。今回はアレルギー性鼻炎がどのように発症するのか、そのプロセスを理解するために重要なポイントを説明します。
1.発症のメカニズムの概要
アレルギー性鼻炎は、遺伝的素因が関与するⅠ型アレルギー性疾患であり、感作の発症に関与する要因は多岐にわたります。日本人の集団では、IgE産生に関わる遺伝子(CD14、IL-33、TYRO3など)の多型が関与しているとされています。IgEは、抗原が鼻粘膜内に侵入すると、鼻粘膜内や所属リンパ組織で産生されます。
抗原が体内に入ると、免疫細胞(抗原提示細胞)がそれを処理し、その情報をTh2リンパ球とBリンパ球が受け取ります。この細胞同士の相互作用がアレルギー反応を引き起こします。また、制御性T細胞がこれらを抑制的に働きかける役割も果たします。アレルギー性鼻炎の主な原因抗原は、吸入性抗原です。ヒョウヒダニ(ハウスダスト)や花粉(樹木、草花、雑草など)が主な原因となり、食物抗原の関与は少ないとされています。
2.感作のプロセス
アレルギー性鼻炎の発症には、まず「感作」と呼ばれる過程が必要です。感作とは、特定の抗原(アレルゲン)に対して免疫系が過敏に反応するようになることです。
● 免疫応答の開始
抗原(アレルゲン)が体内に侵入すると、免疫系の抗原提示細胞がその抗原を認識し、処理します。これにより、Th2リンパ球とBリンパ球が活性化されます。
● IgEの産生
Th2リンパ球がBリンパ球を刺激し、IgE抗体が産生されます。このIgEが鼻粘膜などに存在するマスト細胞(好塩基性細胞)に結びつきます。
● 感作の成立
これにより、再び同じ抗原が体内に入った時に、免疫系が速やかに反応できる状態になります。これが「感作」が完了した状態です。
3.即時反応(early phase reaction)
感作後、抗原が再度体内に入ると、「即時反応」が発生します。この反応は通常、抗原暴露から数分以内に始まります。
● 抗原とIgEの結合
再度侵入した抗原が、感作されたマスト細胞の表面にあるIgEと結合します。これにより、マスト細胞が活性化されます。
● 化学伝達物質の放出
マスト細胞が活性化されると、ヒスタミンやロイコトリエン(LTs)、トロンボキサンA2(TXA2)などの化学伝達物質が放出されます。
● 症状の発生
放出された化学伝達物質は、鼻粘膜の知覚神経や血管に作用し、くしゃみ、鼻汁、鼻粘膜腫脹(鼻閉)などの症状を引き起こします。これが「即時反応」と呼ばれる現象です。
4.遅発反応(late phase reaction)
即時反応が起こった後、抗原暴露から6〜10時間後に「遅発反応」が発生します。この反応は、炎症が進行する段階です。
● 炎症細胞の浸潤
マスト細胞やTh2リンパ球が放出するサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13など)により、好酸球や2型自然リンパ球(ILC2)が鼻粘膜に集まります。これらの細胞が鼻粘膜内に浸潤し、炎症を引き起こすことにより、症状が現れます。
● 炎症の進行
炎症細胞が放出する化学物質(LTs、血小板活性化因子[PAF]、TXA2など)が粘膜を刺激し、さらなる鼻粘膜の腫れや血管の拡張を引き起こします。
● 慢性化のリスク
遅発反応が繰り返されると、慢性的な炎症状態が続き、アレルギー性鼻炎の症状が悪化することがあります。
5.鼻症状のメカニズム
● くしゃみ
くしゃみの反射は、鼻粘膜の知覚神経終末から伝わる信号によって引き起こされます。特に、ヒスタミンが刺激となり、知覚神経が活性化されます。鼻粘膜過敏性が高い状態では、抗原暴露が少量でもくしゃみが発生しやすくなります。
● 鼻漏
鼻粘膜への抗原の刺激により、くしゃみと同時に副交感神経が刺激されます。この刺激が鼻腺に伝わり、鼻汁が分泌されます。鼻汁の成分の一部は血漿漏出によって構成され、主にヒスタミンやLTs、PAFなどが関与します。
● 鼻閉
鼻粘膜の腫れは、血管平滑筋の弛緩と血漿漏出が同時に起こることによって引き起こされます。副交感神経の反応によって鼻腔内の血管が拡張し、腫れが生じます。また、ヒスタミンやLTs、PAFなどの化学伝達物質が直接鼻粘膜の血管に作用し、腫れを引き起こします。
6.慢性化と治療
アレルギー性鼻炎は、上記のような免疫反応が繰り返されることにより、慢性化することがあります。症状が続くと、炎症が持続的に続き、鼻粘膜に慢性的な変化を引き起こします。治療法は、発症メカニズムを理解した上で選択されるべきです。
次回は、アレルギー性鼻炎の「検査・診断」について詳しく解説しますので、お楽しみに!
参考文献
● 鼻アレルギー診療ガイドライン – 通年性鼻炎と花粉症 – 2024年版 改訂第10版:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会、鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編